近年の地球温暖化による気温上昇は、人間だけでなく犬の健康にも深刻な影響を与えています。中でも注意が必要なのが、年々増加傾向にある犬の熱中症です。
犬は人間以上に暑さに弱いため、少しの油断が命に関わる危険性もあります。
ここでは、獣医師の立場から犬の熱中症の症状・予防法・応急処置をわかりやすく解説していきます。
犬が熱中症になりやすい理由
犬は全身に汗腺がなく、パンティング(口を開けてハアハアする呼吸)でしか体温を下げられません。
気温や湿度が高いと熱を逃がしきれず、体温が急上昇してしまいます。そのため、犬は人間以上に熱中症のリスクが高いのです。
さらに、以下の3つの特徴も影響しています:
- 被毛に覆われている
毛で体が覆われているため、熱がこもりやすい - 地面の照り返しを受けやすい
特にアスファルトなどでは、地面から熱が伝わり体温が上がる - 自分で涼しい場所に移動できない
外出中や散歩中は日陰や涼しい場所に移れない
これらの理由から、犬は熱中症になりやすい体の構造と生活環境を持っているといえます。
犬の熱中症の症状
犬の熱中症は進行がとても早く気づかないうちに重症化することがあります。
実際に、ぐったりした状態で動物病院を受診した犬のうち、重度の熱中症と診断された犬の死亡率は約50%に達することも報告されています。
そのため、初期症状を見逃さないことが非常に重要です。
初期に見られる症状(軽度)
- 呼吸が荒い・ハアハアが増える(パンティング)
- 元気がない、動きが鈍い
これらの軽い症状でも、放置すると多臓器不全やショック状態に進行する可能性があります。
重度の症状
- 虚脱(ぐったりして力が入らない)
- 嘔吐・下痢
- よだれが増える
- 震えや意識消失
この段階まで進んだ場合は緊急事態です。
応急処置をしながら、できるだけ早く動物病院を受診してください。
犬の熱中症の応急処置|獣医師が教える安全な方法
犬の熱中症は進行が早く、重症になると死亡リスクが高いため、飼い主による早期の応急処置が命を守る鍵となります。
ここでは、獣医師の立場から安全で効果的な応急処置の方法を解説します。
1.涼しい場所に移動する
まず、犬を直射日光の当たらない涼しい場所に移動させましょう。
風通しの良い場所や、冷房が効いた室内が理想です。外出中の場合は日陰に避難させるだけでも効果があります。
2.水を少量ずつ飲ませる
犬に少量ずつでも水を飲ませることが大切です。
ただし、一気に大量に飲ませると吐き戻す可能性があるため注意してください。
3.体をぬらして冷やす
犬の体を水でぬらすか、ぬらしたタオルで体を覆います。
さらに、扇風機やドライヤー(冷風)で風を当てると、より効果的に体温を下げられます。
4.保冷剤で効率的に冷やす
凍った保冷剤をタオルで包んで犬の体に当てると安全に冷却できます。
特に、太い血管の通っているわきの下や股の間を冷やすと効率的です。
注意点
直接、冷水や保冷剤を皮膚に当てるのはNG
→理由:冷水で急に体表を冷やすと末梢血管が収縮し、深部体温が下がらず内臓への障害が進むため
5.1~4を繰り返す
応急処置は1~4を繰り返し行い、体温を約39.4℃まで下げることが目標です。
無理に急冷するのではなく、少しずつ安全に冷却しましょう。
犬種による熱中症リスクの違い
犬種によっても熱中症のなりやすさは異なります。
- 短頭種(フレンチブルドッグ、パグ、シーズーなど)
気道が短く呼吸がしにくいため、特にリスクが高い犬種です。少しの暑さでも呼吸困難に陥ることがあります。 - 大型犬(ゴールデンレトリバー、シェパードなど)
体内の熱がこもりやすい傾向があります。運動量も多いため、注意が必要です。 - 小型犬や老犬
体温調節が苦手なため、比較的涼しい環境でも熱中症にかかることがあります。
飼っている犬の特徴を理解し、より細やかな対策を心がけましょう。
季節・環境ごとの注意点
「真夏だけ気をつければいい」と思いがちですが、実は違います。
- 梅雨時期の高湿度:気温が25℃前後でも湿度が高いと熱中症の危険あり。
- 夏の散歩:日が高い時間はアスファルトの照り返しで地面が60℃を超えることも。肉球のやけどや体温上昇の原因になります。
- 室内:閉め切った部屋や風通しの悪い部屋では、気づかないうちに熱中症になることがあります。扇風機だけでは不十分です。
飼い主さんが誤解しやすいポイント
- 「扇風機だけで涼しいはず」→ NG
扇風機は空気を循環させるだけで、犬の体温を下げる効果はほとんどありません。エアコンの使用が必須です。 - 「氷水を一気に飲ませればいい」→ NG
冷たすぎる水は胃腸に負担をかけ、嘔吐の原因になることも。常温~少し冷たい程度の水が適切です。 - 「庭の日陰なら大丈夫」→ NG
湿度が高ければ日陰でも危険です。外飼いの場合は特に注意しましょう。
日常生活でできる熱中症対策
- 散歩は朝や夕方の涼しい時間に
- エアコンで室温25℃前後、湿度60%以下を保つ
- いつでも水を飲める環境を整える
- 車内に犬を残さない
- クールマットや濡らしたタオルを活用する
まとめ|犬の熱中症対策で愛犬を守る
犬の熱中症は予防できる病気です。日常のちょっとした配慮で、大切な愛犬を守ることができます。
- 初期症状に気づいたら自己判断せず動物病院へ
- 応急処置を安全に行い、体温を徐々に下げる
- 犬種や年齢、環境に応じた細やかな予防を。
なお、当院は往診専門のため、熱中症の応急処置や治療については対応いたしかねますことをご理解いただければ幸いです。