狂犬病は本当に怖い? 世界の狂犬病事情

ファミリー動物病院 > コラム > 狂犬病は本当に怖い? 世界の狂犬病事情

国内の狂犬病事情

ご存知のとおり、日本は1950年代に狂犬病の根絶を達成し、それ以降は海外で感染した方を除き、国内での発生は確認されていません。
しかし、義務である狂犬病ワクチンの接種率は年々低下傾向にあり、近年は全国平均で約70%程度(厚生労働省資料)。狂犬病予防法違反での検挙件数も、毎年100件以上(警察庁資料)に上っています。

個人的な印象としては、日本では狂犬病が実際に発生していないため、感染リスクや恐ろしさを実感しにくいことが、この状況の一因ではないかと感じます。

世界ではいまも命を奪う狂犬病

日本では発生のない狂犬病ですが、世界では今なお年間5万人以上が命を落としています。
もちろん、人間だけでなく、多くの動物たちも犠牲になっています。

ここでは、最近報告された世界の狂犬病に関するニュースをいくつかご紹介します。

東ティモール

2025年7月、厚生労働省検疫所より、東ティモールでの狂犬病に関する注意喚起が出されました。
ボボナロ県・エルメラ県・オエクシ県で複数の死亡例が報告されています。

最初のケースは2025年3月、犬に噛まれた成人男性が恐水症※1、羞明※2、攻撃性、けいれん、幻覚などの症状を呈し、5月に病院を受診後に亡くなりました。
その後も5月30日、6月13日、6月17日に別の方々(成人男性・女児)が亡くなり、2024年にも死亡例が確認されています。

動物における感染も増加しており、2024年3月に初めて確認されてから、2025年6月1日時点で106例(うち97%が犬)となっています。急激とはいえないものの、確実に拡大している印象です。

※1 恐水症…狂犬病を発症すると、水を飲もうとする際に筋肉がけいれんし、強い痛みを感じるため水を怖がるようになる症状。
※2 羞明…それほど強い光でなくてもまぶしく感じる状態。

インド

2025年4月8日、インドで7歳の子どもが狂犬病を発症したニュースが報じられました。
数日前には6歳の子どもが狂犬病で死亡しており、いずれのケースでも抗狂犬病血清および皮内ワクチンの接種が行われていました。つまり、適切な処置を受けていたにもかかわらず発症したという点が注目されています。

傷はいずれも首・顔・頭部にあり、ワクチンそのものに問題はなかったとされています。

CNNによると、インドには約6,200万頭の野良犬が存在し、咬傷事故のリスクが極めて高い状況です。
WHOの報告では、世界の狂犬病による死者のうち約36%がインドで発生しており、感染源の99%は犬とされています。

フィリピン

フィリピンでは、毎年300~600人が狂犬病で亡くなっているといわれています。
2025年1月〜9月20日の間にも、すでに260件の死亡例が確認されています。

また、同国では偽造ワクチンが流通しているとの報告もあり、予防体制の課題が指摘されています。

アメリカ・モロッコ

2025年7月23日、アメリカで車の下にいたキツネが人を襲い、怪我をさせる事件がありました。後にこのキツネが狂犬病に感染していたことが判明しています。

また、同年2月には、イギリス人女性がモロッコで野良犬に引っかかれた後、狂犬病を発症して6月に死亡しました。
狂犬病清浄地域に普段暮らしている方ということで、感染リスクを軽視してしまった可能性も考えられます。

世界のニュースを見て思うこと

これらのニュースに共通するのは、人々の生活圏で感染動物に襲われた結果、感染しているという点です。
一度流行が始まれば、日常生活の中でも感染リスクが生じる可能性があります。

実際、インドネシアのフローレス島では、1997年まで狂犬病がなかったにもかかわらず、わずか3頭の犬が島外から入ったことをきっかけに全島へと流行が拡大しました。

もし国内で狂犬病が発生したら?

モロッコの事例は、とてもわかりやすい例です。
私たちは普段、かわいい犬を見かけると自然に触れたり撫でたりしますが、もしその犬が狂犬病に感染していたら、そうした行動は命に関わるリスクとなります。

日本が狂犬病清浄地域だからこそ、安心して犬と触れ合える環境が保たれているのです。

ちなみに、狂犬病清浄地域は日本・オーストラリアなど全世界のほんの少しです。
厚生労働省の資料(クリックすると厚生労働省のページが開きます。)をみていただくとわかるのですが、狂犬病を気にせず生活できる環境は本当に貴重なものです。

狂犬病を国内で発生させないために

感染症の蔓延を防ぐには、少なくとも70%以上の犬が免疫を持つこと(≒予防接種を受けること)が必要とされています。
冒頭で述べたように、現在の日本の接種率はそのぎりぎりのラインです。

大切な家族を守るため、また、犬と人が安心して暮らせる社会を維持するためにも、飼い主としての義務である予防接種を確実に行いましょう。

ファミリー動物病院の取り組み

当院では予防接種率向上のため、各地のホームセンター様やトリミングサロン様などに出張し、狂犬病予防接種の活動を行っています。
「狂犬病予防接種率100%」を目標に、来春も引き続き活動を予定しています。

イベントの詳細や最新情報は随時配信しておりますので、ご興味のある方はぜひ公式LINEにご登録ください。

コラム一覧へ戻る