蚊が媒介するフィラリアについては、皆さまご存知かと思います。
最近ではフィラリア症で命を落とすわんちゃんは大きく減少しました。
その理由はとてもシンプルです。
フィラリア予防薬が普及したからです。
現在では多くの飼い主さんが当たり前のように予防をされていますが、実はこの「当たり前」は決して昔からあったものではありません。
本稿では、狂犬病と同じように「実感のない危険」になりつつあるフィラリア症について、歴史を振り返りながらその怖さと予防の重要性を解説していきます。
※例によって歴史の専門家ではありませんので、詳細はご自身でもお調べください。
フィラリア症の歴史
わんちゃんのフィラリア症が最初に記録されたのは17世紀のイタリアです。
ロンバルディア州の貴族が飼っていたわんちゃんの体内から発見されたのが始まりとされています。
その後、少しずつ研究が進み、血液中に存在するミクロフィラリアの発見、蚊が媒介すること、わんちゃんが最終宿主となることなどが明らかになっていきました。
日本でフィラリアに関する記録が出てくるのは平安時代ですが、記載についてはいわゆるフィラリア(犬糸状虫)ではなく、人に感染する方のバンクロフト糸状虫などです。
有名な話では西郷隆盛も感染していたと言われていますね。
国内のフィラリア症に関するわんちゃんのデータは調べた限り見つからず、日本で広く認知されるようになったのは比較的最近のことかもしれません。
とはいえ、蚊が存在する以上、昔からフィラリアも存在していたと考えるのが自然でしょう。
わんちゃんがフィラリア症に感染するとどうなるのか
フィラリア症は、蚊が吸血する際に幼虫がわんちゃんの体内へ侵入することで感染します。
体内に入った幼虫は成長し、やがて心臓や肺の血管にたどり着きます。
初期にはほとんど症状が出ないことも多く、気づかないうちに病気が進行してしまいます。
進行すると咳が出たり、疲れやすくなったり、食欲が落ちたりといった症状が現れます。
一番怖いのは、成長したフィラリアが心臓や肺の血管に詰まり、血流が妨げられることで、突然命を落としてしまう場合があることです。
ここに至るまでには数ヶ月程度しかかかりません。
一度フィラリア症を発症してしまうと、治療は決して簡単ではありません。
早期に発見できた場合にはお薬による治療が可能なケースもありますが、心臓や血管に大きく成長したフィラリアが詰まってしまった場合には、外科手術で物理的に取り除く必要があります。
この手術は高度な技術を要し、わんちゃんへの負担も非常に大きいものです。
生存率も高くありません。
さらに現在では予防が普及しているため、実際にこの手術を経験した獣医師も減ってきています。
つまり、緊急を要する状況にもかかわらず、対応できる医療機関が限られてしまう可能性もあるのです。
予防薬の登場で何が変わったのか
意外に最近のことですが、フィラリア予防薬が登場したのは1981年です。
皆さまもよくご存知の「イベルメクチン」がその代表例です。
この成分の発見には、日本の研究者である大村智さんが関わっており、後にノーベル医学・生理学賞も受賞されています。
この予防薬の普及によって、フィラリア症は劇的に減少しました。
ここで、わんちゃんの平均寿命を見てみましょう。
環境省の資料によると、現在のわんちゃんの平均寿命は約14.65歳とされています。
小型犬では15歳を超えることも珍しくありません。
人間に換算すると70〜80歳ほどで、人とほぼ同じ寿命まで生きられるようになってきています。
一方、1980年代前半の平均寿命はおよそ7歳前後でした。
現在の半分程度しか生きられなかったのです。
もちろん寿命の延びはフィラリア予防薬だけの成果ではありません。
栄養バランスの整ったフード、ワクチンの普及、医療技術の進歩など、さまざまな要因が重なっています。
しかし、命に関わるフィラリア症が激減したことは、わんちゃんの寿命を大きく伸ばした重要な要素のひとつであることは間違いありません。
「見かけない病気」こそ注意が必要
現在ではフィラリア症を実際に見たことがない飼い主さんも多いでしょう。
それだけ予防が成功している証拠とも言えます。
しかし、見かけなくなったからといって危険がなくなったわけではありません。
蚊が存在する限り、フィラリア感染のリスクは常にあります。
予防をやめてしまえば、かつて多くのわんちゃんが苦しんだ時代に逆戻りしてしまう可能性もあるのです。
予防こそが最も確実な対策
フィラリア症は一度かかると治療が大変で、わんちゃんの命にも関わります。
しかし、予防薬をきちんと投与することでほぼ確実に防ぐことができます。
苦しい治療や危険な手術を避けるためにも、日頃の予防が何より重要です。
フィラリア予防は「もしものため」ではなく、「確実に守るため」の医療です。
わんちゃんと長く健康に過ごすために、ぜひ毎年の予防を欠かさず行いましょう。
当院では、予防イベントを通じフィラリアの検査や予防薬の処方も行っています。
ご都合のよろしい会場があれば是非ご参加ください。