ワクチン未接種のわんちゃんが人を咬んでしまったら
犬が人を咬んでしまう咬傷事故は、単なるケガの問題では済みません。
特に狂犬病予防ワクチン未接種であれば、健康リスクだけでなく法的責任の面でも大きな不利益が生じます。
ここでは、実際に想定される責任区分と、その根拠となる法律や判例を整理して解説します。
※筆者は法律の専門家ではありません。各法律や判例の解釈はご自身の責任にてお願いいたします。
狂犬病予防法による義務と罰則
日本では狂犬病予防法により、犬の飼い主には以下の義務が課されています。
- 犬の登録(市区町村への届け出)。
- 年1回の狂犬病予防接種の実施。
- 鑑札および注射済票の装着。
これらは努力義務ではなく法律上の義務です。
さらに、狂犬病予防法第27条では、これらに違反した場合、20万円以下の罰金が科される可能性があると定められています。
つまり、咬傷事故が起きていなくても、狂犬病ワクチン未接種、鑑札(マイクロチップで代用可能な場合も)・注射済票の未装着そのものが法令違反となり得ます。
参考:厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/index.html
動物愛護法による義務
動物愛護法にはたくさんの努力義務が課されています。
例えば
- 適正な飼養により動物の健康及び安全を保持すること
- 動物が人の生命、身体もしくは財産に害を加えないようにすること
- 動物が生活環境の保全上の支障を生じさせ、または人に迷惑を及ぼすことのないようにすること
- 動物に起因する感染性の疾病について正しい知識を持ち、その予防のために必要な注意をすること
- 動物の逸走(逃げ出す)を防止するために必要な措置をとること
- 動物を終生飼養すること
- むやみに繁殖させないこと
- 飼い主を明らかにするための措置を取ること(マイクロチップなど)
などです。
努力義務ですので罰則はないものの、きちんと動物を管理しているという一つの基準にもなるのではないでしょうか。
特に「動物に起因する感染性の疾病について正しい知識を持ち、その予防のために必要な注意をすること」は義務ではない混合ワクチンなどにもつながるかと思います。
刑事責任 過失傷害罪
犬が人を咬んでケガをさせた場合、飼い主は刑法上の責任を問われる可能性があります。
刑法第209条(過失傷害)では、過失によって人に傷害を負わせた者は罰金または科料に処せられると定められています。
犬の管理を怠った結果として事故が起きたと判断されれば、飼い主の過失が認定されるケースがあり得ます。
また、過失が重い場合は刑法第211条により重い責任が問われる可能性があります。
民事責任 損害賠償義務(民法718条)
民事上の責任で中心となるのが民法第718条です。
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負うと規定されています。
ただし、その動物の種類や性質に応じて相当の注意をもって管理していた場合は責任を免れる可能性があります。
例えば噛み癖のあるわんちゃんに対して極端に長いリードを着けていた場合、突発的なわんちゃんの動きを制御できなかった際に性質に応じた注意が不足していたと判断される可能性があるのではないでしょうか。
実際の判例
咬傷事故や犬による被害について、裁判所が飼い主の賠償責任を認めた事例は多数あります。
例えば、東京地方裁判所令和3年の判例では、犬同士の咬傷事故において飼い主に損害賠償責任が認められ、約15万円の支払いが命じられました。
このケースでも根拠となったのは民法718条の動物占有者責任です。
本事例ではまさに「飼い主はリードによって犬を適切に制御すべき義務があるのにそれを怠った」と指摘されています。
人が被害者となった場合には、治療費、慰謝料、休業損害などが加算され、賠償額が高額化する可能性があります。
大阪地裁の平成30年の判例では、ノーリードのわんちゃんが人を咬んでしまい、飼い主に約200万円の支払が命じられたケースもあります。
こちらは「飼い主はリードをつけるという基本的な注意を怠った」と指摘されており、一般人の目線としても過失は明らかです。
また、平成14年の東京地裁判決ではわんちゃんが人に衝突し、障害が残ってしまった結果、約1,903万の賠償が命じられました。
咬傷事故ではありませんが、過失により重大な結果を招いた場合、非常に高額な賠償責任を負うケースもあり得ます。
仮にですが狂犬病に感染している犬が人を咬んだ場合を考えると、想像するまでもなく重大な結果を生じうると思われます。
一方、平成19年の東京地裁の判決では飼い主が免責されたケースもあります。
こちらはドッグランを横切った人と犬の衝突事故です。
犬が走り回っているドッグランに人が入っていくことはそもそも危険なことですから、想定の範囲外ですよねということで飼い主は損害賠償責任を負いませんでした。
ただし、このように免責されるのは非常にレアケースのようです。
結論的にはワクチンの接種有無に関わらず、責任を問われる事例がほぼということですね。
未接種犬が人を咬んだ場合に想定されるリスク
- 狂犬病予防法違反による罰則。
- 過失傷害罪としての刑事責任。
- 民法718条に基づく損害賠償責任。
これらが同時に発生する可能性があります。
そして、狂犬病予防法違反は事故によって明らかになってしまいますし、義務を果たしていないことが過失の有無の判断に有利に働くことはないでしょう。
なぜ未接種が不利に評価されやすいのか
狂犬病は致死率が極めて高い感染症であり、日本では社会全体で予防を徹底する仕組みが構築されています。
そのため、狂犬病ワクチン接種は犬の適切な管理の基本行為とみなされる可能性があります。
事故後も当事者同士で解決するだけではなく、行政への届け出が基本的に必要です。
参考:大阪府ホームページ
https://www.pref.osaka.lg.jp/o120200/doaicenter/doaicenter/madoguchi.html
まとめ
未接種犬が人を咬んだ場合、複数の法的リスクが発生する可能性があります。
咬傷事故そのものだけでなく、日頃の予防管理の姿勢が責任判断に大きく影響する可能性もあります。
トラブルを未然に防ぐためにも、狂犬病予防接種をはじめとした基本的な予防医療を継続することが、飼い主自身を守ることにもつながるのではないでしょうか。
もちろん、一番は事故など何も起こらないことですが…