小豆が狂犬病に効く?狂犬病の多くの誤解について【獣医師監修】
狂犬病には生小豆が効くので予防接種が不要だと思っている飼い主様がいるとかいないとか、先日耳にしました。
実際に江戸時代には生小豆を用いた狂犬病治療(人に対してですが)が記載されているようです。
じゃあ小豆が効くのかという話ですが、狂犬病の死亡率が未だにほぼ100%というのが結論で、今のところいわゆる民間療法ということだと思います。
ただ、こういった情報が拡散され、信じる人も出てきているのは事実で、それは狂犬病注射が多かれ少なかれ飼い主様のご負担になっているということを示している気もします。
(心理学的には確証バイアスというそうですが、都合のいい情報を正しいと信じてしまうのが人間の性質だそうで。)
結果として、狂犬病の接種率は義務にも関わらず70%台まで低下し、狂犬病の危険を無視できない社会になっていきそうな気がして少し怖いです。
まぁ、もう日本では何十年もわんちゃんの狂犬病が発生しておらず、飼い主様だけではなく獣医師サイドも狂犬病感染の事例なんてほぼ知らないので仕方ない気もしますが…
そこで、狂犬病とその代表的な誤解について本記事でご説明させていただき、改めてご負担をご理解いただき、狂犬病予防接種の重要性をご理解いただく一助になれば幸いです。
そもそも狂犬病とは
様々な記事で書きまくっているので今さら感はありますが、狂犬病は狂犬病ウィルスによる病気で、感染・発症するとほぼ100%死亡します。
過去に6例ほど助かってはいるようですが、世界では今でも年間数万人の方が亡くなっています。
当然ですが感染したワンちゃんも死亡します。
国内では1950年に狂犬病予防法が制定され、1956年に人、1957年に動物の感染が最後となり、世界でも稀な狂犬病清浄地域という扱いになりました。
この狂犬病予防法に飼い主様の義務として生後91日以上のわんちゃんの飼い主様は自治体にわんちゃんを登録し、狂犬病を毎年1回受けさせ、交付される鑑札(今はマイクロチップでOKの場合が多いです。)と、注射済票(これはマイクロチップじゃダメ。)をわんちゃんにつけておかなければいけません。
デマ1:海外では毎年じゃないから毎年受けさせなくても大丈夫!
さて実際にたまに聞くお話を書いていきます。
確かに海外では3年間効果のある狂犬病ワクチンもあるそうですが、大前提として法律で決まっているので毎年受けさせる必要があります。
海外で前述のワクチンを使っていても日本に来たら毎年1回必要です。
違反すると刑罰に処される可能性があります。
海外より厳格なのは清浄地域だからこそ。
日本で犬に噛まれて狂犬病になるかも!とは思いませんが、海外だと狂犬病の不安を抱えないといけない国は普通にあります。
デマ2:動物病院業界の利権!
これもよく聞くお話ですが、登録費用や注射済票の交付手数料は自治体に納付するもので、狂犬病予防接種自体の売上は恐らく当院のように予防専門のところは除いて多くの動物病院で数%あるかないかというところでしょう。
わかりやすいデータを探していたらとある動物病院さんが2%と仰ってましたね。
利益がないわけではないですが、仮になくなったとて病院が傾くようなものではありません。
また、狂犬病注射薬の量がわんちゃんのサイズによっても変わらない点も一本売りたいから!と怪しまれている方もいらっしゃるようです。
確かに、フィラリア薬なんかは体重によって違いますから、わからんでもないです。
ただ、これらは全く違う薬だという認識が必要です。
ワクチンは原則的に予防する病気に感染したのと似たような免疫反応を起こして、要は免疫の予行演習をし、病気に対する抵抗力をつけることを目的にしています。
なので、簡単にいうと免疫反応を起こすことが重要で、体内に薬をいきわたらせることが必要ではないということです。
そして、その為に必要な量は実は体格によってはあまり変わりません。
人間でも、太ってようが痩せてようがワクチンの量は一緒ですしね。(お相撲さんでも変わらない!)
必要量についてはメーカーさんが研究して、安全性が高くしっかり予防できる量を指定しています。
デマ3:狂犬病注射を打つと寿命が短くなる…
もちろん、ワクチンは副反応があります。
悲しいですが副反応によって亡くなってしまう子もいます。
ですが、狂犬病ワクチン自体の副反応の報告はかなり少ないです。
獣医師は動物用医薬品によって副作用が起きたことを認識したら農林水産大臣に報告しなければいけません。
この副作用報告は動物用医薬品データベースというサイトで誰でも確認可能です。
もちろん院外で起こった事象などは網羅されている訳ではないですが、「狂犬病」を製品名に含むもの*で検索すると2022年で13件。
厚生労働省発表の2022年接種頭数は4,299,587件。
シンプルに割り算すると0.000302354%とかなりの低さです。
死亡したケースに絞ればさらに減ると思われます。
結論を申し上げますと、副反応のリスクよりも予防のメリットが勝るために獣医師も接種しています。
ちなみに、別の病気等でリスクの高いケースは猶予証明書を発行して、接種しません。
また、今の所ワクチンが犬の寿命に影響するという科学的なデータはないようです。
*動物病院で一般的に使用されるものは基本的に製品名に含まれていると思います。
国内にそもそも狂犬病ウィルスはいるのか
感染動物という意味合いでいうと、基本的にはいないと思います。
ただ、海外から入ってくる可能性は大いにあります。
実際、海外で感染した人が国内で発症する例も時々聞きますね。
国内に動物を入れる場合当然検疫はあるのですが、100%防げるという確証もありません。
そもそも、狂犬病予防法の検疫(犬等の輸出入検疫規則)に関係する動物*も限定されているようなので、検疫を通過してしまう可能性は無視していいほど低いわけでもない気がします。
そして、万一感染したら…感染したわんちゃんに咬まれたら…
今の日本の状況であれば感染する可能性はかなり低いでしょう。
しかし、この状況が何年何十年と続いた後だと、正直わからないです。
ちなみに余談ですが咬傷事故の件数(わんちゃんが人を咬んだ事故の件数)は令和2年で4,602件。
ここ数年くらいあまり件数的には変わらないようです。(ずっと4,000台)
民法ではペットが誰かに損害を加えた場合はその損害を賠償する責任を負う旨が規定されています。
一方但し書きで「ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。」とあります。
わんちゃんの種類及び性質に相当の注意をもって、愛情を注いで一緒に生活していただけたらなぁと思います。
*犬、猫、あらいぐま、きつね及びスカンク
どうしても毎年打たなければいけないのか
これに関しては、今のところ「Yes」ですが今後の獣医療の進歩等で変わる可能性はもちろんあります。
ただ、それまでは個人の判断で捻じ曲げていいお話ではないということです。
インターネットには有用な情報がたくさんありますが、無責任なデマもあふれています。
最終的に正しい判断をし、愛犬を守れるのは飼い主様だけです。
狂犬病の件に限らず、わからないことは獣医師に遠慮なく相談して、健康と幸せを守っていきましょう!