動物用医薬品(フィラリア薬など)の個人輸入について【獣医師監修】

嬉しいことにファミリー動物病院へのお問い合わせをたくさん頂戴するようになりましたので、多いお問い合わせは詳しくご説明させていただきます。
今回は、動物薬の海外からの個人輸入についてです。
結論から申し上げますとお勧めしませんが、一応掘り下げますね。

※本記事は農林水産省はじめ行政の資料と獣医学的な目線からあくまでも当院の意見として執筆しています。
輸入代行については法律を遵守され、独自の安全措置等をとられている企業様もあるかと思いますので、正当な輸入代行業者様自体を否定するものではありません。

動物薬の個人輸入とは

現状の国内の動物用医薬品の流通としては、原則動物病院から飼い主様にお渡しすることが普通です。
一部の医薬品で作用がおだやかなものなどはネットでも買えますね。
厳密には薬局等でも処方は可能なのですが、処方箋を出す獣医さんはあまりいないので、一般的ではありません。
あっさり書いてますが、国内での医薬品の承認⇒流通のフローはかなり細かく規制されていて、健康被害のリスクを少なからず抑えることができていると思います。

個人輸入は上記のどの流通にも属さず、海外のショップから医薬品を飼い主様自身で輸入されることを指します。
実は、国内には通販のような形で輸入させてくれる「個人輸入代行業者」が存在しているために割と簡単にできるようになっています。

法律的に大丈夫なの?

ここはいろいろと議論のある所ですが、個人輸入サイト自体は結構ブラックよりのグレーだと思います。
公表されている資料を総合すると、違法な部分はあるんだろうなぁという話にはなりますが、当院は法律の専門家でも行政の立場でもないため、正確なことはこの記事では判断いたしません。(できません。)
明確に違法だと断じている獣医さんもいらっしゃいますね。

飼い主様自身が罰せられることはないように思います。
(断定はできません。法律関係はご自身でよくご確認のうえ対応をお願いいたします。)
ただ、もちろん輸入について別途規制があるものもありますし、輸入したものを他の人に販売したり譲渡すると犯罪になる可能性も。
あくまで①特定の範囲のお薬を②自分の飼っている動物に使うために③個人輸入する、という3点を満たしていなければいけません。
ネットが苦手な家族・友達の為に~なんてのももちろんアウトですよ。

とりあえず購入する分には大丈夫?

動物病院目線でいうと、大丈夫とは言えないです。

そもそも、個人輸入には以下のようなリスクがあると農林水産省が公式に情報提供をしています。
ざっくり要約すると

  1. 偽物かもしれない。
  2. 重大な副作用をもたらす可能性。
  3. 購入先とのトラブルになる可能性。健康被害について飼い主様が責任を負わなければいけない可能性。
  4. 通関トラブルの可能性。

詳細は下記URLより確認可能です。
https://www.maff.go.jp/j//syouan/tikusui/yakuzi/y_import/attach/pdf/kakunin-5.pdf※農林水産省のページが開きます。

1.偽物かもしれない。

正直、明確に違法行為をしている個人輸入業者さんもいらっしゃいます。(実際に2018年には書類送検された企業もあります。起訴されたかは不明ですが。)
アウトローな方々を大切なペットの医療面で信用していいのか、個人的には疑問が残ります。
もちろん、最終的には個人の判断ですが、人間のお薬の方はメーカーさんが調査して偽物がたくさんあるという調査結果も出されています。
動物薬は大丈夫、という根拠は全くありません。

上記メーカーさんの調査は調べたら簡単に出てきますので興味があれば検索してみてください。

2.重大な副作用をもたらす可能性。

そもそも大前提として、ノミダニ薬は国内の通販サイトで買えるのに、フィラリア薬等はなぜダメなんだろう、と考えていただきたいと思います。
ルール的には要指示医薬品と一般医薬品の違いがあり、要指示医薬品は獣医師自身の処方か、獣医師が発行した処方箋などで薬剤師が処方することになっています。
ノミダニ薬は一般医薬品、フィラリア薬は要指示医薬品ですね。

要指示医薬品が具体的に何かというと、副作用の強いものや病原菌等が耐性を示しやすくするものなどが挙げられます。
具体的にはフィラリア薬の他、抗生物質やワクチン等です。

例えばフィラリア薬であれば、フィラリア陽性のまま気づかずに使用することで体内のフィラリアが一気に死滅し血管に詰まったり、ショック症状が起きたりして、命に関わることもあります。
重大な副作用です。獣医師が診察した後でなければ処方できないことには理由があるのです。

何がいいたいかというと、医薬品は誤った使い方をすると大きなリスクがあるということです。
予防薬を海外輸入して、健康な子にわざわざリスクを作るのは本末転倒ではないでしょうか。
実際に人間のお薬では個人輸入で健康被害が出ています。

ずっと健康でいてほしいのか、結果はどうでも予防した気持ちになりたいのか、絶対前者ですよね。

3.購入先とのトラブルになる可能性。健康被害について飼い主様が責任を負わなければいけない可能性。

そもそも個人輸入代行業者のホームページは薬機法に引っかかってる可能性も大いにあります。
(広告宣伝とか)

1.とも関連しますが、そんな広告の記載事項が真実かどうかなんて確認のしようがないこともあります。
また、健康被害が起きても誰も責任をとってくれない可能性も高いです。

例えば国内の代行サイトを利用する場合、あくまでサイト側の仕事は輸入の代行であって仲介ではなく、取引自体は建前上海外の会社と飼い主様個人です。
よって、何か問題があった場合は飼い主様ご自身が海外の会社と直接やり取りする必要があると思われます。
多分日本語通じないですし、大変だと思います。

4.通関トラブルの可能性。

購入したはいいけど通関でストップすることもありますね。
また、輸入規制がかかっていたりすることも。

うっかり変な薬物で税関にひっかかったら痛くもない腹を探られちゃうかもしれないですしね。
まぁ、今の所そんな話は聞いたことはないですが、成分や規制を理解しないまま輸入手続きをする場合、ないとは言えないですよね。

個人輸入のメリットは?

メリット、メリット…考えてみたけど、安かった~って気持ちになれることくらいじゃないでしょうか。

その薬が本当に効いているかわからないので効いていなければ安かろうとお金を捨てたことになりますし、リスクはしょってますからね。
何かあったらその分治療費もかかりますし、安いからと言ってメリットになり得るかというと微妙な気がします。

個人輸入で確実にメリットといえるだけの効果を得るためには多分すっごく勉強しないといけないと思います。

結論。動物病院にちゃんと行こう。

結論はやっぱり予防薬は動物病院でね、ってことですが、これは動物病院だから言ってるんじゃないんです。

予防薬も治療薬も薬というものはなんとなく投与するものではなく、目的があって投与するものです。
目的が達せられないのであればただ必要のないものを体に入れただけになってしまいます。
それで思いもよらない結果を招く可能性もあるでしょう。

国が取り締まらないものを絶対ダメ!とはいう権利もないし言いませんが、目先のお値段だけで選ぶことはお勧めしません。
動物病院が個人輸入より高いお値段で処方するのは、専門的判断や正しい流通の下で薬を使用しているからです。
どうか、その点十分ご理解いただき、是非予防は当院じゃなくてもいいので絶対動物病院で行っていただければと思います。